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<<日本の素材産業の未来像とは? ~政府が示した「新・素材産業ビジョン」から~>>
2022-09-05
日本の素材産業(鉄鋼、化学等)は、高い国際競争力を持つ生産体制を構築しつつ、様々な産業に高機能な部素材を提供するとともに、国内雇用や地域経済を支えてきた重要な存在です。数字で見ると、GDPの2割、事業所数(約3万8千)、従業員数(約170万人)、製品出荷額(約87兆円)。付加価値額(約28兆円)でみても製造業全体の約3割を占めます。
一方、昨今の日本の素材産業を取り巻く環境は厳しさが増しています。
・2050年のカーボンニュートラル達成に向けた脱炭素化の取り組み
・中国の自国完結型のサプライチェーン強化による同国の素材産業の競争力向上
・ロシア・ウクライナ戦争による原油・天然ガスの価格高騰による原材料高騰
・円安進行による原材料輸入価格の上昇
・気候変動(猛暑)による電力供給のリスク増大などです。
特に、長期的な視点では、「脱炭素化の取り組み」が最重要課題となります。素材産業は、他の産業に比べ、電力を大量に使用するため、CO2排出量が多いセクターであります。産業部門のエネルギーを起源とする2019年度のCO2排出量(約3億8000万トン)は鉄鋼業が全体の40%を占め、化学が15%と続き、この2業種で全体の排出量の過半を超えます。素材産業のCO2排出量削減には、バリューチェーンの川上および川下の産業の協力が必要です。
例えば、化学産業であればナフサ製造を行う川上の石油精製産業との関係のほか、下流の誘導体や成形加工等の分野であらゆる産業に素材を提供する裾野の広いサプライチェーンを構築しています。鉄鋼産業についても同様に、鋼材の加工産業をはじめ、自動車等の幅広い分野にサプライチェーンを構成しています。
つい先日、JFEが高炉の電炉転換を発表しましたが、これも素材産業の脱炭素化の取り組みの一例です。
▼関連記事(日本経済新聞 2022年9月2日(金)付記事)
脱炭素へ「移行」投資加速 JFE、高炉の電炉転換発表
JFEは30年度に13年度比でCO2排出量3割削減を目指します。目標達成の場合、CO2排出量を抑えた「グリーン鋼材」を年間で最大500万トン生産できる見通しです。30年度に向けた一連の脱炭素投資は1兆円規模を見込み、既に親会社のJFEホールディングスが脱炭素に向けた資金を調達する「トランジションボンド(移行債)」を22年に発行し300億円を調達しました。これと時期を前後しますが、今年4月に、日本の素材産業の展望をまとめた「新・素材産業ビジョン(中間報告)」が経産省から発表されました。
当報告書では、新・素材産業への変革の方向性が示されています。主な項目を抜粋すると以下の通りです。
<新・素材産業への変革の方向性>
(1)素材産業が直面する課題
①中国の存在感の拡大とグローバル競争激化
②内需の減少と外需の拡大
③サプライチェーンの強靱化
④2050年カーボンニュートラルに向けた生産プロセス転換
⑤デジタル化の進展と人材確保の困難化
(2)安定供給の確保
(3)経済安全保障への対処
(4)生産体制の変革
①内外最適立地の徹底追求
②高付加価値品シフト
③事業の新陳代謝サイクル
④マザー機能の国内保持
特に、脱炭素化の取り組みをデジタルテクノロジーで解決しようとする、(1)⑤の項目は注目です。14ページからなる短い報告書ですが、今後、素材産業が取り組むべき課題が分かりやすく整理されています。素材産業をお客様に持つ担当者には必読のレポートです。ちなみに、この中間報告書の発表に関連して、今週火曜日(9/6)に経産省担当者を講師としたオンラインセミナーが開催予定です。
9/6 オンラインセミナー「素材産業におけるイノベーションの役割と期待」
▼詳細URL
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002117.000032407.html
(まとめ)
このように、日本の基幹産業である素材産業は、外部環境の大きな変化により、変革を迫られ変化対応しようとしてます。ニュースメディアでは、スタートアップや最新のデジタルテクノロジーに関する報道が多いのですが、日本経済を陰から支えている素材産業が変化対応している動きにも意識を向けて情報収集しましょう。
