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投稿記事

<<マイナンバーカードの健康保険証利用について考える>>

2023-09-22
マイナンバーカードの健康保険証利用に関連して、他人の情報がひも付けられていた問題について考えてみます。
日本では、マイナンバーカードの健康保険証利用に関連して、他人の情報がひも付けられていた等の問題が起きていますが、そもそも何故こんなことが発生したのかを、デジタル化が進んでいるエストニアと比較しながら考えてみたいと思います。勿論、保険の加入者だけで12,245万人の日本と、全人口が133万人の国であるエストニアを比較することは難しい部分もあると思いますが、逆に言えば人口133万人のエストニアですら、保険者を1つに統合してから、デジタル化を進めたのですから。

【エストニアの保健制度】
エストニアの健康保険制度は、日本と同じく税方式による「国民皆保険制度」です。 エストニアの永住者、滞在許可等に基づいてエストニアに居住し、社会税を支払っている人、またはその扶養を受けている人は、健康保険に加入する権利があります。 現在エストニアの健康保険の保険者は1つで、「エストニア健康保険基金」(EHIF:Estonia Health Insurance Fund Database) という団体に統合され、1か所でデータが管理されています。統合以前は17の保険者が存在しましたが、業務の効率化と自治体の負担軽減を考えて、整理統合されました。


【日本の保健制度】
エストニアと同様に日本の健康保険制度は「国民皆保険制度」ですが、保険者は合計3237もあり、個別にデータを管理をしているため、正確な維持管理が難しく、制度の複雑さが相まってシステム化することが非常に困難な状況となっています。各保険者がマイナンバーとの紐づけをおこなっていますが、財政基盤が弱く十分な資金や人手をかけることが出来ない保険者が多数存在します。例えば主に大企業の会社員らが入る健康保険組合の約8割が2023年度の収支が赤字の見通しとなっているのです。

保険者の内訳(2020年3月末時点)
・市町村の国民健康保険(保険者1716)
・組合健保(保険者1388)
・共済組合(保険者85)
・協会健保(保険者1)
・後期高齢者医療制度(保険者47)


【制度の複雑さがデジタル化を困難にしている】
エストニアの保険制度を支えているデータベースは、正確性と自動化が徹底されており、住民登録データベースからは、氏名や住所の最新データが毎日、直接転送され、自動で処理されます。今回のマイナンバーカードと保険者の紐づけの誤りは、あくまでも保険者の「人為的ミス」と政府は説明をしていますが、保険者のデータ登録に問題があることは当初からわかっていたことであり、厚生労働省も当然把握をしていましたが、それでも進めてしまったことに問題があるのではないでしょうか。現状の制度の複雑さをそのままにして、目的も不明確なまま、国民的な合意を得ずにデジタル化を進めたことにこそ、真の問題があると思いますが。

余談ですが、1990年代に日本の大手企業がERPの導入を進めましたが、その多くのプロジェクトが失敗したり、製造現場等の要求を聞き入れて多数のアドオンを開発してERPを運用したため、当初予定をしていた効果を得ることが全く出来なかったという、失敗談を思い出してしまいました。こんなことを思い出すのは、私だけなのでしょうか。

出典:朝日新聞2023年9月16日掲載記事「マイナ保健証なぜトラブルが続く」より