本文へ移動
未来に向けた学び・成長・共感の場を創造し挑戦し続ける人や
組織の開発と発展に貢献します。
フィープラーニングは、時代のニーズにマッチした
旬な教育テーマの「企画」と「コンテンツ開発」を提供します。

投稿記事

<<目覚めた巨象、インドへの熱視線>>

2023-04-17
2023年には中国を越え、「世界一の人口大国」に踊り出るインド。そして、2022年12月1日から2023年11月30日までインドがG20の議長国を務めます。先週13日に閉幕したG20財務相・中央銀行総裁会議でも「グローバルサウス」の盟主を意識しはじめたインドの発言に注目が集まりました。今年に入り、メディアもインド特集を続々と組み、今後、日本企業がインドとどのように関係を深めていくべきか関心が高まっています。今回の投稿では、インドの今後の動向を予測する上で役立つ視座・視点をご提供します。

【視座その1】国際政治・経済安全保障からみたインドの重要性

(視点1)ロシア・中国とG7を中心とする西側陣営とのバランス政治をとるインド
インド政府はウクライナ侵攻を巡り、ロシアに対して批判的な立場を取っていますが、他国ほど厳しい姿勢を取っておらず、ロシア産原油の輸入も拡大しロシアとの関係を維持しています。今年9月にG20の首脳会議があり、それに先立ちモディ首相のウクライナ訪問も可能性として浮上しています。インドが国際舞台でプレゼンスを高める機会が巡ってきており、今後のモディ首相の発言と動向に注目です。

(視点2)米国のインド取り込み策
今年に入り、米国とインドの関係が深まる動きがありました。米国とインドの両政府は1月31日、米印重要新興技術イニシアチブ(iCET)の第1回会合をワシントンで開催しました。会合では、
(1)両国のイノベーションエコシステムの強化、
(2)防衛分野のイノベーションと技術協力、
(3)強靭(きょうじん)な半導体サプライチェーン、
(4)宇宙、
(5)科学・技術・工学・数学(STEM)分野の人材育成、
(6)次世代の通信
という6分野の協力推進が確認されました。

インドと米国が国家レベルで技術連携を深める背景には、当然のことながら、米国のライバル、中国の存在があります。
今後、インドはバンガルール(旧バンガロール)などのハイテク企業の集積地を中心に、米シリコンバレーの企業群と密に関係を深めていくことが予想されます。ハイテク分野で米印関係が深まると、インド発ユニコーン数がより増えると予想されます。

【視座その2】.経済面からみたインド経済成長のカギ
(視点1)製造業振興策「メーク・イン・インディア(Make In India)」
「メイク・イン・インディア」は、モディ首相が就任した2014年から掲げる製造業振興のスローガンです。投資環境の整備を通じて、直接投資誘致を促進し、GDPに占める製造業の割合を15%から25%に引き上げる目標を掲げました。
「新たな雇用の創出」「貿易赤字の縮小」「輸出の拡大」を狙いとしています。

宣言から約10年が経ちますが、当初の計画通りには進んでいません。インドの複雑な制度(州ごとに異なる規制や税率)や道路・電気等のインフラの未整備が進捗を遅らせています。

製造業の中でも雇用創出に期待が持てるのが、自動車業界。いまやインドは、中国・米国に次ぐ第3位の自動車市場に成長しています(2022年に日本を抜く)。なかでも、トップシェアのマルチ・スズキ・インディアは、ご存じの通り、スズキの合弁会社。インド国内では圧倒的なシェアを誇るものの、最近ではライバルにじわじわとシェアを奪われており50%を切っています。打開策として、SUVの強化や電気自動車(2024年度発売予定)にも力を入れております。スズキと資本関係を持つトヨタも先日、EV強化を新社長が宣言しましたので、中長期的にはスズキとトヨタのEV連携戦略に注目です。

(視点2)半導体の製造拠点として注目が集まるインド
米トランプ政権時に米中ハイテク競争が激化し、中でも「産業の心臓」と言われる半導体については、輸出規制が米バイデン政権下でも引き継がれています。そんな中、米国が進める経済安全保障政策が、米台日韓の半導体同盟「Chip 4(半導体チップの4か国)」です。台湾のTSMC、韓国のサムスン電子、日本のソニー等が各国のリーディング企業となって、米主導の「Chip4」に協調しています。そして、米国は、中国包囲網を強化すべく、この「Chip4」にインドを巻き込もうとしています。すでに、インドでは、広大な土地を確保し、3兆円超の投資をおこない半導体工場の建設が進められています。先に述べた「米印重要新興技術イニシアチブ(iCET)」と「メーク・イン・インディア」を推進する上で重要となる投資と言えます。

(さいごに)
モディ首相の就任直後の2014年に起きた「インドブーム」をご存じでしょうか。当時も、日本のメディア各誌が「これからはインドの時代、成長するインドに投資しよう!」と呼びかけていました。モディ首相が掲げた「メーク・イン・インディア」は当時はトレンドキーワードでしたが、期待したほど成果が上がらず、ブームに乗ってインド進出した日本企業の中には撤退を余儀なくされた企業も少なからずあります。

今回は、「世界一の人口大国に!」「2023年はG20議長国に!」「米中対立のキャスティグボートを握る存在!」という
複数の要素が重なって起きたインドブームです。少なくとも今年はメディアがインドを取り上げる回数は例年に比べ格段に増えますが、期待感をあおるメディアの誇大宣伝を真に受けず、インドの現状と課題を冷静に分析したうえで、インドの未来像を予測したいものです。

<関連記事・雑誌>
▼日本経済新聞 2022年4月10日付 目覚めた巨象を取り込め
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69983780X00C23A4TCS000/

▼日経ビジネス 2023年4月10日号 インドの人材を呼び込め 停滞ニッポンに活力中国を抜き世界一の「人口大国」に
https://business.nikkei.com/atcl/mail/20/00476/