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投稿記事

<<中国恒大集団が米国で破産法の適用を申請>>

2023-08-18
中国恒大集団が米国で破産法の適用を申請
経営再建中の中国不動産大手、中国恒大集団が8月17日、ニューヨークのマンハッタン地区連邦破産裁判所に、連邦破産法第15条の適用を申請しました。中国恒大集団の2021年と2022年の2年間の最終損益合計は約5800億元(約11兆6000億円)の赤字となり、債務超過に転落していますが、同法を申請することにより、中国恒大集団の米国内の資産を保護、強制的な差し押さえなどを回避することが出来ます。同社の負債総額は22年末で2兆4374億元(約48兆7000億円)ですが、債務再編交渉が難航している外貨建て債務はこの一部であり、最も大きな債務は、建設会社など取引先へ支払うべき買掛金で、その金額は約1兆元(約20兆円)にのぼります。同社は今回の連邦破産法第15条申請で、難航する外貨建ての債務再編交渉を打開したい考えですが、その効果はかぎられ、抜本的な再建への道は遠い状況です。

1996年創業の恒大は中国の不動産ブームに乗って高成長、2010年代半ばには売上高で世界トップクラスの不動産会社になりましたが、不動産価格の高騰を危惧した中国政府が不動産会社の財務に制限を強化したことなどから経営が傾きました。中国の不動産市場を巡っては深刻な不況が鮮明になっていて、7月には主要70都市中49都市で新築住宅価格が前月より下落、下落した都市数は6月から11都市増えたほか、各都市平均の価格下落率も拡大しています。不動産市場が中国の国内総生産(GDP)に占める割合は約25%に達し、住宅ローンが銀行融資に占める割合も約30%を超えています。不動産市場は鉄鋼、化学、家電、家具など関連産業に及ぼす影響が大きく、不動産市場の低迷が、中国経済と金融に大きな影響を及ぼす可能性があります。


今回は、この不況の不動産市場の背景と、中国政府の今後の対応を、以下項目で整理してみたいと思います。
①中国の土地制度と地方政府の財政
②地方政府の隠れ負債「融資平台」
③中国政府は今後どのように対応するのか


【①中国の土地制度と地方政府の財政】
中国では土地は公有であり、企業・個人による土地の売買は禁じられています。地方政府が土地を使用する権利(土地使用権)を不動産企業に売却して不動産開発が実施されています。(取得した土地使用権は、法律に従い譲渡・賃借・抵当にすることが出来ます)この土地使用権には期限があり(居住用の土地は70年間)、現時点では自動延長されますが、建物については修繕計画に基づく大規模修繕や、日常の設備点検などが疎かなため、問題となるマンション等が多数あります。これは、日本の様にマンションのメンテナンスを確りおこなって長く使用するよりも、古くなったマンション等が地方政府等により土地が収用されて、取り壊し対象となる方が、高額な保証金を得ることが出来るためです。古くなったマンションが取り壊しの対象となり、一夜にして億万長者になるケースもめずらしくなく、そのため敢えて取り壊し対象になりそうなマンション等を購入する投資家も多く存在しました。しかし、各都市に「高新区」と名付けたハイテク産業開発区が設立され、都心部が高新区に移動、旧中心市街地では人口が減少し住宅の需要が低下する傾向があり、地方政府が敢えて高額な補償金を支払い、マンション等の建替えを行うインセンティブが乏しくなってきています。

更に打ち出の小槌であった地方政府の土地使用権譲渡収入への依存度が年々高くなり、不動産市場の低迷によって不動産開発が落ち込み、土地使用権譲渡収入が減少、地方政府の財政を悪化させるという、負のサイクルが回り始めています。中国の場合、地方財政は市民生活と直結しており、コロナ対策費用、老齢年金や医療保険等の福祉予算も全て地方財政が負担しています。年々厳しくなる地方財政の中で、土地譲渡金収入が占める割合は2021年時点で41.5%と高く、浙江省、江蘇省など経済が発達した東部沿岸地域では50%を超えるところもあります。この土地譲渡金収入が、2022年の1月から8月までの累計で前年同期比で28.5%減少、地方政府の財政が更に悪化しています。



【②地方政府の隠れ負債「融資平台」】(ゆうしへいだい Local Government Financing Vehicle(LGFV))
融資平台は、中国の地方政府が傘下に置く投資会社で、資金調達とデベロッパーの機能を兼ね備え、地方政府の信用力を背景に銀行借入や債券発行などを通じて資金を調達、地方政府の指示に従って公共住宅や社会インフラなどを建設します。この会社(融資平台)は地方政府と出資関係がありますが、政府機関でないため、政府の予算・決算の枠外となっています。

一般に中国では、地方政府の財政規律を維持するため、地方債の発行を原則禁止しています。この中で、地方政府が高い経済成長を維持するためには、公共住宅やインフラ開発が必要であり、その抜け道として「融資平台」が発達しました。この背景には、地方政府の経済成長を維持・拡大することが、地方政府の官僚の高評価となり、結果中央政府の官僚に出世するという、キャリアパスが存在しているからです。今までは公共住宅を作れば作るだけ販売することが可能でしたが、作ったけれど売れない住宅がどんどん増えているのが現状なのです。(この売れないマンション等を鬼城(きじょう ghost town)と呼びますが、特に投機目的の不動産投資と開発運営事業の失敗により完成しないまま放置されたり、人々が入居する前に廃れた都市や地域を指す表現として使われるようになりました)

中国経済が減速する中で不動産市場は不況となっていますが、融資平台の「隠れ借金(債務残高)」は、IMFの推定によると1300兆円もあり、この融資平台が破綻に追い込まれると、中国経済に致命的な影響を与える可能性があります。


【③中国政府は今後どのように対応するのか】
中国政府はこの事態をどの様に解決するのでしょうか。

・中国人民銀行は、事実上の政策金利の引き下げに踏み切りました。利下げは去年8月以来で、景気回復の勢いが鈍くなるなか、追加の金融緩和で資金需要を刺激し経済を下支えする狙いですが、国民の間で雇用への不安や節約志向が根強く、不動産市場の低迷が長期化していることなどから景気回復の勢いが鈍くなっています。物価上昇率も0%台が続いていて「デフレ懸念」も生じていますし、金利の引き下げはドルに対する一層の人民元安につながる懸念があるほか、実体経済に資金がどこまで回るのか不透明との指摘もあります。

・財政出動によりアクセルを踏もうにも、地方政府は隠れ借金である「融資平台」で身動きが取れません。中央政府としては、地方政府を支援しなければ経済成長と社会の安定が大きく揺るがされる恐れがある一方、支援すればさらに野放図な支出を後押しするリスクがあり、ジレンマを抱えていると言えます。現状は、中国版リーマン・ショックが起こる土俵際となっているのです。


益々厳しくなる中国政府の状況を整理してみました。8月10日に「習近平政権の権力構造」を読んで感じたことを投稿させていただきましたが、部下には自分の職分を守ることを強要していますし、長老には「退職した老人らは黙ってろ」平たくいえば、こんな意味の攻撃的な通達を、習近平の職務を支える党中央弁公庁が出し、最高指導部経験者である長老、そして退職した幹部らの口を封じ、服従を求めています。皇帝習近平は、全てを自分で解決しなければならない状況を自ら作りましたが、この難しい状況をどのように解決していくのでしょうか?