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<<自衛隊の影の情報組織「別班」について考える>>

2023-09-15
TBS日曜劇場「VIVANT(ヴィヴァン)」に登場する自衛隊の影の情報組織「別班」について考えてみます
俳優の堺雅人が主演を務めるTBS日曜劇場「VIVANT(ヴィヴァン)」(日曜・午後9時~)の世帯平均視聴率は、第1話~第9話で13.7%、裏番組のNHK総合「ラグビーワールドカップ2023・日本×チリ」が後半が19.7%を記録する中、同時間帯の民放トップとなりました。「VIVANT」という言葉はフランス語で「生きている」「活気的な」等の意味を表していますが、本作では自衛隊の影の情報組織である「別班」を表しています。今回はこの影の情報組織「別班」について考えてみたいと思います。

「VIVANT」では、主人公(乃木役が堺雅人)らが所属する「別班」が、海外での武力行使なども厭わず、謎のテロ組織「テント」の実態を暴いていく姿が描かれています。VIVANTのストリー等については、以下公式ページでご確認下さい。

【自衛隊の闇組織「別班」について】
「自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体」という講談社現代新書があります。本書は、身分を偽装した自衛官に海外でスパイ活動をさせている、陸上自衛隊の非公然秘密情報部隊「別班」の実体に迫ったものです。「別班」は、ロシア、中国、韓国、東欧などにダミーの民間会社をつくり、民間人として送り込んだ「別班員」に、ヒューミント※1を展開させています。日本国内でも、在日朝鮮人を抱き込み、北朝鮮に入国させて情報を送らせる一方、在日本朝鮮人総聯合会にも協力者をつくり、内部で工作活動をさせています。たしかに、米国の国防情報局(DIA Defense Intelligence Agency)のように、海外にはヒューミントを行う軍事組織は存在しますが、いずれも文民統制(シビリアンコントロール)、あるいは政治のコントロールが一定のレベルで効いており、首相や防衛相がその存在さえ知らされていない「別班」とは明確に異なります。

張作霖爆殺事件や柳条湖事件を独断で実行した旧関東軍の謀略を持ち出すまでもなく、政治のコントロールを受けずに、組織の指揮命令系統から外れた「別班」のような部隊の独走は、国家の外交や安全保障を損なう恐れがあり、極めて危ういと言えます。「別班」はいわば帝国陸軍の「負の遺伝子」を受け継いだ「現代の特務機関」であり、災害派遣に象徴される自衛隊の「陽」の部分とは正反対の「陰」の部分といえます。

自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体 (講談社現代新書) 新書 – 2018/10/17
著者:石井 暁氏(1961年8月15日生 慶應義塾大学文学部卒業。1985年共同通信社入社。現在編集局編集委員。1994年から防衛省を担当)

私も、本書を読みましたが、現時点では分かりませんが、すくなくとも著者の取材時点では確かにこの組織は存在した様に思います。著者が述べているように、政治のコントロールを受けずに、組織の指揮命令系統から外れた「別班」のような部隊の独走は、国家の外交や安全保障を損なう恐れがあり、極めて危ういと考えますが、一方、こういう情報組織が必要なことも事実なのではないでしょうか?

【自衛隊の闇組織「別班」についての政府の見解】
日本政府は2013年12月の答弁書で「陸上幕僚監部運用支援・情報部別班なる組織については(中略)、これまで自衛隊に存在したことはなく、現在も存在していない」と否定しています。

少なくとも著者の取材時点では存在していたと考えられる「別班」、一方日本政府は「過去も現在も存在しないと完全否定」をしています。その様な中で、週刊文春(2023年9月14日号)が、石破茂元防衛相にインタビュー、石破氏は「別版は存在している」、且つ「国家に必要な情報部隊」と政府の公式見解と矛盾する発言をしました。






【石破茂元防衛相が「VIVANTで話題の‟別班は「存在している」、且つ「国家に必要な情報部隊」と政府の公式見解と矛盾する発言】
陸上自衛隊の秘密情報部隊「別班」について、石破茂元防衛相(66)は「週刊文春」の取材に対して、「存在している」と語りました。(石破氏は、第一次小泉内閣で防衛庁長官(2002年9月~2004年9月)として初入閣、福田内閣でも防衛相(2007年9月~2008年8月)を務めています)
石破氏と文春の一問一答は以下の通りです。

石破氏:別班は「存在はしています」「なきゃおかしい」
文春:日曜劇場で「VIVANT」というドラマをやっているのご存知ですか?
石破氏:「なんだそりゃ、知るわけないだろうが」
文春:その「VIVANT」で、自衛隊の「別班」を描いています小野寺五典防衛相(当時)は2013年、「別班の存在はありません」と答弁しています。
石破氏:「それは国会で答弁したんでしょ?」
文春:はい。
石破氏:「だから、それは、自衛隊の組織図上も出てこないはずですよ。だから大臣が「存在します」なんて言ったら結構大変なことになるよね。でも、それがね。「なきゃおかしいだろう」と」別班の活動については「聞かないことになっています」
文春:「なきゃおかしい」というのは、「必要だから」ということでしょうか?
石破氏:「そりゃそうでしょうね。そういう情報部隊みたいなものはね。ましてや日本みたいに、こういう恐ろしく抑止力に欠ける国家としてはさ。弱いウサギは耳が長いっていう話ですよ」
文春:「別班」はどのようなことをしてきたのか、耳に入っている限り、で構わないのですが。
石破氏:「それは聞かないことになっています。政治が知ることでもないし。ただ、その民主主義という観点から言って、自衛隊がやっていることについて、政治が一切知らないということが本当にいいのかということはありますよね」
文春:ただ、「別班」と言われる組織は、総理も防衛大臣も「知らない」としている組織になっていて、当時の共同通信も「問題じゃないか」と指摘している。
石破氏:「文民統制っていうのはね、そうあるべきなんだけども、「知らせてはいけない義務」というのもあるんですよね。日本の場合、文民統制の主体たる議会が、秘密保持という点においてはまったく信用ならないので。その議会における情報保全というのがまったく仕組みとしても成り立っていない。で、憲法(57条1項)に「秘密会」とは書いてあるけども、秘密会でいかに秘密が保全されるかなんて仕組みはどこにもないわけですよ。だから、文民統制は必要だと思いますよ。だけど、統制する側の秘密保全というのは、きちんと仕組みとして担保されていないといけない。私は、国会における「秘密会」の制度というものを整えないと文民統制は機能しないと思っているのでね」
文春:防衛省はドラマの内容について「コメントは差し控えます」。他方、防衛省報道室に「別班」や「VIVANT」について確認を求めたところ、「陸上自衛隊の「別班」といったような組織は、これまで存在しておらず、また、現在も存在していません。テレビ局が放映しているドラマの内容について、防衛省としてコメントすることは差し控えます」との話でした。

石破氏が語るように「別班」が存在していた場合、憲法で定められた文民統制を逸脱している疑いも浮上するだけに、今回の発言は更なる論議を呼びそうです。


国家に「別班」の様な「情報部隊」が必要なことは論を待たないと考えますが、何故日本では、闇の組織として存在し、米国等ではDIA(アメリカ国防情報局)の様に正式な組織として存在しているのでしょうか?

【なぜ我が国に本格的な情報機関が生まれなかったのか】
日本戦略研究フォーラムの政策提言委員である元公安調査庁出身の藤谷昌敏氏は以下理由を挙げています。
理由①
明治維新により欧米列強並みの産業の近代化と富国強兵を急ぐ我が国は、フランスとプロイセンの行政機構を導入して、強力な行政機構による統治を目指しました。そのため国内の治安維持と近代産業の育成のために内務省を創設しました。当時は、まだ本格的な情報機関を持つ国はなく、政府直属の情報機関までは考慮されませんでした。
理由②
第1次世界大戦を経て、欧州を中心とした各国で本格的な情報機関が作られるようになりましたが、総力戦となった第1次世界大戦をほとんど経験しなかった日本では、対外情報よりも国内の治安維持、国防力の強化が第一とされました。また、1917年に起きたロシア革命は、世界に共産主義を拡散、その影響を恐れた日本政府は、警察や特高などによる思想統制や世論工作に力を入れました。
理由③
日本を占領統治したGHQは、二度と日本が侵略国とならないために情報機関の創設には消極的でした。日本においても対外情報組織の設置には慎重な意見も根強く、朝鮮戦争勃発を契機に米国CIAが日本に情報機関設立を要望しましたが、内外から反対が多く実現しませんでした。日本人の中には、まだ特高や憲兵による弾圧の記憶が生々しく、情報機関と言えば、まずこれらの組織が連想されたからです。


日本では、過去の歴史から、正式な組織として情報機関の設立を議論することは殆どありませんでしたし、石破氏が発言をしている様に、「文民統制の主体たる議会が、秘密保持という点においてはまったく信用ならない」という状況下で、議論すること自体が難しい状況だったのかもしれません。一方情報機関の必要性は、テクノロジーの発達とともに、益々高まっているのではと考えます。

「情報機関」は、「対外情報機関」と「防諜機関」に分かれます。「対外情報機関」は、外国の政治・軍事・外交・経済情報などを収集、「防諜機関」は、外国の情報網をつぶしたり、スパイを摘発する任務を遂行します。例えば、米国には「対外情報機関」として中央情報局(CIA Central Intelligence Agency)、「防諜機関」として連邦捜査局(FBI Federal Bureau of Investigation)がありますが、主としてヒューミント※1を実行する組織です。一方主としてシギント※2を実行する組織として、米国国防総省の情報機関である国家安全保障局(NSA National Security Agency)があり、他に軍事情報を専門に収集、調整する機関として国防情報局(DIA Defense Intelligence Agency)があります。他にも米国には情報機関が多数あり、情報機関の連携強化などを目的として国家情報長官が設置され、連邦政府の16の情報機関の予算、人事を統括する権限を持っていますが、各情報機関への指揮権は不明な状況です。

※1ヒューミント(HUMINT human intelligence)とは、人間を媒介とした諜報のことで、合法活動や捕虜の尋問等も含み、スパイ活動のみを指すわけではありません。外交官や駐在武官による活動をリーガル(Legal-合法)、身分を偽るなど違法な手段で不法に入国しての活動をイリーガル(Illegal-非合法)と呼びます。

※2シギント(SIGINT signals intelligence)とは、通信、電磁波、信号等の、主として傍受を利用した諜報・諜報活動のことです。

日本では、国家安全保障会議の事務局「国家安全保障局」(日本版NSC)が設立されましたが、国家安全保障に関する政策提言・立案を行うため情報の収集及び分析、その他の調査に関する事務並びに特定秘密の保護に関する事務を担当する組織として「内閣情報調査室」(内調)があります。「公安警察」は警察庁警備局の指揮下で活動していますが、警視庁には公安部があり、所属警察官約1100名を擁し、最大規模の公安警察官を抱え、国内の治安維持を目的に防諜活動をおこなっています。また道府県警察本部の警備部には「公安課」が設置されています。「公安調査庁」は国内の治安維持のために国内外の情報収集を行っており、経済安全保障チームも創設され、幅広い調査を行っています。「外務省」は、国際情報統括官組織を中心に外国の情報を集めていますが、情報活動に特化していません。「防衛省情報本部」は、電波情報、画像情報、地理情報、公刊情報などを自ら収集・解析するとともに、防衛省内の各機関、関係省庁、在外公館などから提供される各種情報を集約・整理し、国際・軍事情勢等、 我が国の安全保障に関わる動向分析を行うことを任務としています。「海上保安庁」では、警備救難部が情報収集を行っていますが、情報収集の専門組織ではありません。

上記の様に日本は、本格的な対外情報機関や防諜機関と呼べるような専門的な組織は存在しませんが、このままで日本の安全保障が保たれるのでしょうか?