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投稿記事

<<習近平体制下で進む「国進民退」が生み出すものは何か>>

2023-10-06
習近平体制下で進む「国進民退」は何を生み出すのでしょうか?
「国進民退」とは、国有企業が存在感を高め、民間企業が市場からの退出を余儀なくされる市場経済化の後退を示す現象で、「国退民進」の現象と対称をなす現象です。国有企業の効率性の低さが長らく問題視されてきた中国では、1990年代には、国有企業の民営化などの改革「国退民進」が政府によって進められましたが、2012年から始まった習近平体制下では、国家の統制を強化する「国進民退」が進められています。

習近平は、共産党の指導体制こそが中国の「奇跡の高成長」をもたらした原動力と考えており、共産党の指導体制の維持、強化を志向しています。さらに、米国との間で生じた激しい貿易摩擦によって、中国のハイテク製品の製造に必要な半導体などの部品の海外からの供給が制約を受ける中、半導体の内製化を一気に進めるなど、海外に依存するサプライチェーン(供給連鎖、供給網)を見直し、できるだけ自国内で完結できるように、「自力更生」を進めているのです。こうした習近平自身の経済思想と外的要因の「2つ」が重なり、政府・党の影響力が直接的に及ぶ国有企業を重視する傾向が強まっているのです。

出典:
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2021/fis/kiuchi/0416


【「国進民退」の事例】
①2020年夏「三つのレッドライン」と呼ばれる不動産企業の資金調達条件の厳格化措置が発表されました。本措置の内容は公表されていませんが、新華社によると①負債の対資産比率は70%以下②純負債の対資本比率は100%以下③手元資金の対短期負債比率は100%以上という、3つのレッドラインに従って不動産企業を4分類し、それぞれの債務規模を制限するものです。3つのレッドラインを超えた「レッド企業」は有利子負債を増やしてはならない。2つ超えた「オレンジ企業」は有利子負債の増加ペースが年5%以内となるよう管理監督され、1つ超えた「イエロー企業」では有利子負債の増加ペースは年10%以内、レッドラインに一つも引っかからない「グリーン企業」では同15%以内に抑制されます。これは財政状況に不安のある不動産開発企業に対する銀行融資を規制するもので、過剰な不動産投機を抑制し、格差を是正することを目的としたものですが、本措置を受けて、不動産企業による土地取得面積が大きく減少、不動産企業は資金繰り難から破綻のリスクに直面、一部は社債がデフォルトとなっています。

出典:
http://www.nicmr.com/nicmr/report/repo/2022/2022win16.pdf

②中国で競争政策を担う中国国家市場監督管理総局は2021年4月、電子商取引最大手のアリババ・グループが独占禁止法に違反したとして、罰金180億元(27億5,000万ドル)を科したと発表しました。当局は、2020年末に独占禁止法違反でアリババ・グループへの調査を始めてからわずか4か月未満で結論を出しましたが、今回の罰金額は同社の2019年の国内売上高の4%にあたり、独禁法違反の罰金額としては中国で過去最大とみられます。当局は、アリババ・グループが2015年から市場における支配的地位を乱用してきた、と結論付けていて、具体的には、自社通販サイトの出店者が他のプラットフォームに出店することを禁止する、「二者択一」の慣行が独占禁止法違反にあたる、としました。当局は、徹底した改革によりコンプライアンス(法令順守)強化と、消費者の権利保護をアリババ・グループに合わせて指示、これに対してアリババ・グループは、「処罰を受け入れ従っていく、コンプライアンスを強化し、社会的責任を果たしていく」との声明を出しました。

中国では2008年に独占禁止法が施行されましたが、アリババ・グループのような巨大ネット企業、プラットフォーマーは、この独占禁止法の対象からは事実上外されてきました。高いイノベーションを持つ新たな産業を育てる観点から、当局は、当初はそうした企業、産業を放任しておき、法的にグレーな部分も黙認、深刻な問題が浮上してから初めて、管理・規制の強化に乗り出すのす。こうした姿勢は「先放後管」と呼ばれ、中国政府のいわば常とう手段であり、「後出しじゃんけん」とも言えます。

政府の2021年の経済政策運営上の重点課題の1つが、「独占禁止と資本の無秩序な拡大防止」でしたが、この「資本の無秩序な拡大防止」という表現には、習近平国家主席下での「国進民退」の流れをさらに進める、という中国政府の強い意志と、民間企業に勝手なことはもはや許さない、という強い決意の双方が感じられます。目的は間違っていないと思いますが、その手段に疑問を感ぜざるを得ません。

出典:
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2021/fis/kiuchi/0412


【国有企業の現状】
国有企業は、資源や原料加工など川上に多く、資源高が利益を押し上げています。(国有石油大手3社の香港上場子会社の2022年1〜6月期決算は原油高が追い風となり、過去最高の純利益)また国有企業は国家の信用力を生かして低利で資金を調達しやすいという利点があり、ゼロコロナ政策で悪化した景気を立て直すためのインフラ投資などの受注も国有大手に集中しやすくなっています。習近平体制にとって、国有企業のシェアが増大すれば経済全体を管理しやすくなりますが、課題は国有企業に残る非効率で、製造業などの国有企業の赤字比率は22年末時点で24.5%に及び、民間企業の赤字比率18.5%より高くなっています。

国有企業の売上高を、2023年の「フォーチュン・グローバル500」から見ると、Top10には国家電網(3位)、中国石油天然気集団(5位)、中国石油化工(6位)の中国国有のエネルギー関連企業が入っていて、中国企業(香港を含み、台湾を含まない)は135社がランクインしています。2022年比で1社減り過去2015年で初めての減少となり、内順位を上げた企業は35社、順位を下げた企業は89社、国有企業は118社(87.4%)となっています。

以下がここでのポイントです。
①「フォーチュン・グローバル500」にランクインしている企業の約90%が国有企業
②「フォーチュン・グローバル500」にランクインしている中国企業数が2015年以来初めて減少
③国有企業の赤字比率は2022年末時点で24.5%

非効率を残したまま「国進民退」をすすめると、結果として中国の経済力を衰退させる可能性があるのではないでしょうか。

出典:
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM076XB0X00C23A2000000/
出典:
https://diamond.jp/articles/-/327765?page=2
出典:
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2021/fis/kiuchi/0416

【「国進民退」が生み出すものは何か】
中国銀行の調査レポートは「中国は異例のスピードで工業化と都市化を達成したが、これを支えたのが交通、輸送、不動産、資源関連などに関わる国有企業であり、それらが過去の『フォーチュン・グローバル500』にも名を連ねてきた」として一定の功績を認める一方で、「工業化の終焉とともに、需要の鈍化、過剰生産能力、低い利益率が企業の存続を圧迫するだろう」と行く末を案じています。また同レポートは、中国には巨大な消費市場があるにもかかわらず、それに見合うブランド力のある企業がほとんどない現状を悲観し、「国有企業に求められるのはイノベーションだ」と主張していますが、これは「スターバックスやナイキ、ギャップやウォルト・ディズニーなどに見る価値の創造を、果たして国有企業ができるのか?」という問いでもあるのです。

出典:
https://diamond.jp/articles/-/327765?page=2

共産党の指導体制こそが中国の「奇跡の高成長」をもたらした原動力であり、共産党の指導体制の維持、強化が今こそ必要と考えている習近平は、今後も「国進民退」をすすめるのでしょう。中国経済の失速が目立つ中で、今後1~2年は企業に友好的な政策への回帰も予想されますが、今後5年間の中期的方針を示す党大会での方針には「新左派」による影響が強く見られ、経済状況がひと段落すれば不動産税・相続税・贈与税の導入や所得増税、突然の産業規制など、企業にとっては向かい風となる政策が推進される可能性がおおきいのではないでしょうか。(中国では改革開放を支持するのは「右派」といわれ、この右派と新左派の対立がまた非常に激しくなってきています。ここにナショナリズムが絡んでいて、ナショナリズムを帯びた新左派のような、イデオロギー的な声も非常に強まっています)

出典:
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4720
出典:
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/geopolitical-risk-column/vol8.html